人間は環境を守りながら壊す存在──
だからこそ環境資源工学科がある

地球・環境資源理工学専攻 修士1年
川浪 嵩史 Kawanami Takafumi
栗原研究室
2020年度インタビュー
※新型コロナウイルス感染対策のため、リモートで取材を実施しました

Q 環境・資源に興味を持ったきっかけは?

エネルギーに興味を持ったのは高校の頃でした。修学旅行で訪れた軍艦島で大きな廃墟を目の当たりにして、大きなショックを受けました。エネルギーの世代交代は、島から人がいなくなるほどの大事件なのだと。
軍艦島は炭鉱によって栄えましたが、消費エネルギーが石炭から石油にシフトしたエネルギー革命が起こると、石炭需要は急落しました。これによって軍艦島の炭鉱は閉鎖され、人々は島から出ていくことを余儀なくされました。
エネルギーがいつ枯渇するかは誰にもわかりません。軍艦島のような生活の激変が世界中でいつ起こるとも限らないのです。
折しも、ちょうど大学の進路を考えていた時期だったので、資源開発の分野に興味を持ち始めました。
その後、資源系の大学を調べてみると、環境資源工学科は資源開発と環境保全の調和をテーマに掲げていることを知り、ここなら今の時代に合った研究ができるはずだと確信して入学しました。

あらゆる知見を動員し、
地下資源のありかを予測する

Q 現在の研究内容は。

研究テーマは、メタンハイドレートの「生産挙動予測プログラム」の開発です。メタンハイドレートは「燃える氷」と呼ばれる天然ガスを内包する固体のエネルギー資源で、日本近海に大量に埋蔵しています。
メタンハイドレートが生産できるようになれば天然ガスの可採年数が延長します。しかも燃焼の際に発生する窒素酸化物や二酸化炭素の量が石炭や石油と比べて少ないので、環境問題と資源問題の両方にインパクトがあります。
石油と同じように生産できると良いのですが、安全面・技術面で課題があります。メタンハイドレートが埋まっている地盤は一般的な石油や天然ガスと比べて浅い地層にあり、比較的軟弱なのですが、メタンハイドレートを生産していく過程でさらに脆くなります。固体のメタンハイドレートをメタンガスと水に分解して抜き出すのですが、これにより岩盤の骨格構造が変化し、圧密や変形が起きます。ガスや水の流動性が低下し、生産挙動に影響を与えるのです。
さらに岩盤の一部が崩れて砂が流動し、生産時に井戸のパイプに砂の塊が流れ込むことがあります。これもまた操業をストップさせる原因になります。
このように、メタンハイドレートの生産はハイリスクなので、事前に生産量や生産時に起こり得るリスクの予測を立てた上で開発する必要があります。私が開発している生産挙動予測プログラムは、岩盤の圧密や変形が生産挙動に与える影響を効率的に計算することを目指しています。資源開発には膨大な費用がかかりますから、失敗は大損失です。資源会社が開発投資を判断する際に役立つはずです。

メタンハイドレートが燃焼する様子

Q 研究の醍醐味は?

幅広い知見を動員して取り組むところです。石油や天然ガスの場合は流体力学の知識でカバーできますが、メタンハイドレートは生産時に地盤が脆くなるので岩盤工学の知識が必要な上に、気化熱がメタンハイドレートに与える影響を考慮するために熱力学の知見も要求されます。
生産挙動予測プログラムでは、これら全ての要素の数値計算を行うのですから、その計算は膨大な量です。研究室のパソコンでは、6日間生産するシミュレーションで2週間かかります。それだけ現実に起きている事象が複雑ということなのですが、思った通りの計算結果が出ると達成感がありますね。

社会貢献への志は
研究でも仕事でも変わらない

Q 環境資源工学科を目指す学生に一言。

家の近くには多摩川が流れています。多種多様な生物が生息していることからアマゾン川をもじって「タマゾン川」と呼ばれることのあるこの川には、外来種が多く生息していることで知られています。実は、その多くは人間が放流したものです。
通っていた中学校では、この外来種を水槽で保護する活動をしていました。
外来種は生態系を壊すので悪者にされがちですが、元はと言えば人間が捨てたもの。釣りを楽しみたいがために稚魚を放流するケースもあると聞きます。悪いのは外来種でしょうか?
この問題を通じて、社会問題の複雑さを感じさせる意図があったのではないかと、今になって思います。
環境資源工学科では現実の問題に対処しますから、一筋縄ではいかないことばかりです。
言ってみれば、資源を開発することは、環境を破壊することであり、その矛盾を乗り越えることが人間の暮らしを豊かにするということです。
このような正解のない問題に取り組むために、学ぶことの幅が広いのが特徴。ですから、就職先も資源や環境の分野以外にも多様で、ほとんどの業界に人材を輩出しています。その点では安心の学科ですから、興味があれば是非進学してほしいですね。