恵まれた環境で間口を広げ、
未来につなげて

独立行政法人 製品評価技術基盤機構 化学物質管理センター 次長
村田 麻里子 Murata Mariko
1990年 資源工学修士課程修了
原田・大和田研究室
2020年度インタビュー
※新型コロナウイルス感染対策のため、リモートで取材を実施しました

Q 仕事の概要を教えてください。

製品評価技術基盤機構(NITE)というところで、化学物質の安全性評価に携わっています。NITEは工業製品の性能や安全性を評価する経済産業省所管の独立行政法人です。
私が所属しているのは化学物質管理センターという部署です。ここでは、化学物質の安全性に係る性質やリスクを評価するなど、法律の運用を技術面から支援したり、化学物質に係る様々な情報を提供し、化学物質の適切な管理に貢献しています。
私が主に担当してきたのは「リスク評価」です。
私たちの身の回りにある製品はすべて化学物質でできており、生活から産業に至るまで化学物質は欠かせない存在です。化学物質は、製造や使用、廃棄などの過程において、意図的又は非意図的に環境中へ排出されます。そういった化学物質は知らずしらず、私たちの体内に取り込まれることがあり、体内や環境中の化学物質が一定量を超えると、人の健康や生態系に悪影響を及ぼす場合があります。ある化学物質について、どのくらいの量でどのような悪影響がでるのかという有害性と、環境中の量や体内に取り込まれる量を調べて、悪影響を及ぼす可能性を予測評価するのがリスク評価です。リスク評価の結果は、環境への排出量を減らすなどの化学物質管理や、法律の規制対象にするかなどの判断に役立てられます。私はこの10数年ほど、化学物質審査規制法という法律の中で国が行うリスク評価の手法構築や手法改良、運用支援に携わってきました。

環境を学びにくい時代に
資源工学科を選んだ

Q 環境分野を志したのはなぜですか。

特定のきっかけというより、育った年代などの影響かと思います。小学生だった1970年代は公害が社会問題になっていたころですが、近所の川はゴミや泡だらけだったし、光化学スモッグ注意報はよく出ていたし、「公害」はそこにあるものでした。中高生の頃は、地球の砂漠化の加速といったような地球環境問題の報道なども増え、気になっていました。そのような中で、進路を考える頃には、漠然とですが、将来は今でいう環境分野の仕事につこうと思うようになりました。
環境分野の仕事につきたいとはいっても、どういった仕事があるのかという知識はなかったので、進路を選ぶときは選択肢の中から嗅覚で選んだようなものです。当時の理工学部の学科の案内に一通り目を通し、資源リサイクリングや鉱山跡地の緑化といった講座もあって環境を扱うことに一番近そうにみえた資源工学科を選びました。資源工学科は今でこそ学科名に環境が付きましたが、当時、環境面はメインストリートではありませんでした。しかし、原田・大和田研究室で修士論文のテーマを決めるときに環境関連の研究をしたいとご相談したところ、休廃止鉱山の廃水処理法をテーマに設定してくださいました。操業終了後の鉱山からは、重金属を含む坑廃水が長期にわたって流出し続け、半永久的な水処理や、処理で発生する中和殿物の廃棄場所の確保などが問題となっていました。

Q その後、他大学で博士号を取得されていますね。

修士修了後は環境コンサルタントの会社に就職し、国や自治体の環境行政関連の調査や環境アセスメントの業務に従事しました。環境アセスメントでは、土地開発の際に消失する生息地面積等により、そこの生物相への影響評価をしていましたが、何かもっとよい評価法がないものかとひっかかっていました。
そんな折、中西準子先生の『環境リスク論』という書物を読み、生態系への影響を種の絶滅リスクで表すことができるという考え方に感銘を受け、どんな方法なのかと大変興味を持ちました。当時、横浜国立大学におられた中西先生に連絡をとって進学することを決め、その年度末に退職して翌年度に受験し入学しました。「野生鳥類個体群におけるダイオキシン類の生態リスク評価」というテーマで博士号を取得し、そこで得たスキルを活かしてNITEに就職しました。

Q 環境資源工学科を目指す学生に一言。

今の仕事に至るまでさまざまな経験を積みましたが、資源工学も環境アセスメントもリスク評価も、学際的な実学であることが共通しています。基礎となっていることは重なりがあり、資源工学科時代に学んだことは今の仕事でも基礎となっていると感じます。
環境資源工学科を選択される方は、漠然とではあっても世の中で実際に役立つことを学ぼうとされているのでは、と想像します。本学科で選択できる科目は幅広く、それを入口として、学びのための時間、仲間といった恵まれた環境で間口を広げ、未来につなげてほしいと思います。