学部長賞受賞作品

社会に受けいれられる人工知能AI~AIが補佐する一次産業~

5班 臼井万南子
 
私は人工知能AIと一次産業について考え、探ったことについて話したいと思います。
AIについて議論すると、まずAIの進歩によってそれらが能力の幅を広げることで人間の活動、仕事の幅が減るのではないかと不安を感じる人は少なくありません。人間よりはるかにさまざまな能力が長けているわけですから、そう感じるのは当然です。しかしAIの進歩によって人間の仕事が減るといわれる一方で、主に一次産業では人手不足やそれに伴う後継者不足が深刻化しています。左のグラフでは平成22年の年齢階層別農業就業者数を示した少し古いデータにはなりますが、緑色の部分の基幹的農業従事者の年齢構成をみると、高年齢層の人数が圧倒的に多いことが分かります。右のグラフでは基幹的農業従事者数の推移を示しています。このグラフを見ると従事者数は減少傾向にある一方で平均年齢は年々上昇しており、農業の場では高年齢層の割合が非常に多いことがわかります。このことは農業だけでなく、広く一次産業の場で当てはまります。今後高年齢層のリタイアが増加すると見込まれることから、将来における日本の農業を支える人材となる青年層の新規就農者を確保し、定着を促進することが課題となります。ではこのような実状を踏まえ、一次産業に受け入れられ、従事者と支えあうような相性の良いAIの活躍の場は具体的にはどこにあるでしょうか。ここでは伝統工芸と、農業や漁業について考えます。
日本古来から伝わる伝統工芸品などの制作場は近年後継者不足で途絶えてしまうというところが少なくありません。しかしこのような芸術作品は人間の手が直接入り、絶えることのない人々の創意や欲求が形となって生み出されるものです。したがって、経営の面で少し売り上げのデータ解析などができたとしても、まったくの白紙の状態からアイデアを生み出すことのできないAIが伝統産業関連の事業に直接的に関わるのは難しいでしょう。
一方で、農業や漁業でもまた主に若者の人手不足による後継者不足が特に深刻化してきています。広大すぎる海や農地を相手に少人数が全てを面倒見るというのは肉体的にもとても厳しく、体力の限界により諦めてしまうというようなところも少なくないでしょう。また農業や漁業の場では、「長年の勘」というものが曖昧な表現ではありますがとても重要視されます。これは言葉の通り農家や漁師の方々が長い間さまざまな経験をして身に着けた、野菜や魚の状態を予測するような力であり、言葉や数字にして次世代に伝えるのは簡単なことではなく、ましてやAIに「勘」というものを教えるのは難しいとされていました。ですが近年その問題を解決するようなAIの技術が農業や漁業の場に取り入れられてきています。
先ほども言いましたように、一次産業の場ではしばしば数値化できないような長年の勘、すなわち「感覚値」というものが当てにされますが、それを次世代に継承できるように「勘」をAIに代替させ、現代に合った形に変えようという技術が開発されてきています。農家や漁師の方々が「人の目で見てさまざまな情報を得ている」ということを利用して、例えば魚の餌やりのタイミングや野菜の収穫の時期を見計らうために、ITが「画像解析」によって生物の状態を分析するというシステムがあります。また、熟練農家や漁師の作業中の無意識の動作や視線をアイカメラなどによって形式化するものもあります。これらの技術は、農家や漁師の経験と新しいテクノロジーが融合した、馴染みやすい形のものとなりました。このようなシステムを用いて、農業や漁業においてはまず「感覚値」を数値・形式値として変換することが重要であるのです。
また、自動化して作業を軽減するというような他の産業で当たり前なことを、一次産業に導入していく余地はたくさんあるはずです。ここでは2つの事例について紹介します。
1つ目は葉色解析AIサービス「いろは」です。「いろは」は、圃場の様子を上空からドローンで撮影することで、作物の育成状況を一目で把握できるサービスです。ドローンで撮影した画像をAIで解析し、収量の予測を助けたり、ピンポイントの除草剤散布でコスト削減を実現したりすることが可能です。このシステムを使えば、圃場巡回の時間が削減できるだけでなく、ドローンでのより正確な育成状況の把握が可能になります。
2つ目に挙げる「トリトンの矛」は、長年蓄積されたベテラン漁業者の経験や技術、勘をデータ化することで、効率的かつ生産性の高い漁業の実現と、若手漁師へのスムーズな技術継承を目的としたサービスです。感覚値と気象庁からの海洋気象情報をもとにAI解析を実施して、その日の良い漁場を提案します。今回あげたもの以外にも、一次産業とAIを用いたシステムは融合を進めてきています。
とはいえ、大自然が相手ですから二次、三次産業などの単純作業やサービス業の場と同じようにはいきません。やはり漁業や農業は生き物を扱う分リスクも高いですし、育てるためのコストも大きいからAIのような最新の技術を導入すると多額の運転資金がかかってしまいます。そのため農家や漁師の方々もなかなか先を見据えた投資までは難しく、AIと一次産業の取り組みがまだ完全には信用しづらいこともあり、このようなシステムはなかなか普及が進まないのが現状です。
そこで現地での研究が進みデータが蓄積され、新しいテクノロジーを導入でき従事者からの信頼性も高まれば、自然環境や生物に関して「予見性」と「再現性」が担保されます。AIは何より大量のデータを必要としますが、疲れ知らずのAIはそれらを読み込む作業を苦としません。またAIの記憶力は完璧ですから、最初に読み込んだデータと、終盤に読み込んだデータの関連性も見逃しません。いずれも肉体的にも知能的にも限界のある人間は苦手とする作業です。しかしAIに大量のデータさえ入力すれば、後はAIがデータの中から法則を探してくれます。
一次産業においてこれからも技術を継承させていくためにはAIの手を借りることが望ましいです。そのため、今後の技術の引継ぎの短時間化のためには大量のデータを蓄積することが急務となるでしょう。そうすることで今世代の熟練の技術者、従事者の補佐役となり、まだ経験の浅い若手の担い手たちにとっては、ITやAIを用いた現代の技術は扱いやすいものとなるでしょう。働く人々の負担を軽減し、補佐役となること、それが一次産業、ひいては社会に受け入れられるAIであると私は考えます。
以上です。ご清聴ありがとうございました。

 

コメント

私が今回考えた「AIと一次産業」というのは、授業内でのテーマ討論において、数人のグループで話し合ったことから着想を得たものです。今年度は全てオンラインでの講義で、しばしば孤独を感じ、一人でこのプレゼンに取り組むことへの不安もありました。そのような状況の中、私一人では偏った見方をしていたかもしれないため、他学科の学生と幅広い視点から意見を交わすことができるこの授業はとても貴重で良い機会でした。資料の見やすさや発表内容の伝わりやすさには今まで人一倍力を入れていたことなので、この度学部長賞を頂き、その努力が形となりとてもうれしく思います。

 

創造理工学部長(当時)の菅野先生と授賞式で。左側が臼井さん
 
【参考文献】
カメラ×AIでスマート農業――一次産業で始まった現場革新 2018.9.3
https://businessnetwork.jp/Detail/tabid/65/artid/6290/Default.aspx
農業や漁業などの一次産業こそAIを必要としている 2019.3.13
https://nissenad-digitalhub.com/articles/ai-for-primary-industry/
「漁師の勘」をAIで自動化! 元JAXAの研究者が変える漁業の未来 2020.3.26
https://gyoppy.yahoo.co.jp/originals/56.html
【農業AI注目企業9選】人工知能で農家の働き方改革は実現するか? 2019.5.20
https://ledge.ai/agriculture_ai/
AIを活用した漁業者向けサービス「トリトンの矛」を開発 2019.3.7
https://ledge.ai/2019-03-08-633002355c821414dda05/
農業就業者の減少と高齢化の進行 農林水産省 2015.5.26
https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h26/h26_h/trend/part1/chap2/c2_1_03.html
農業に新たな商機を体制強化し世界目指す サンフロント懇話会 2018.10.28
http://www.sunfront21.org/kaze/181028.html

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