ITを通じて、業務改革に取り組む

旭硝子株式会社
久保田 有紀Kubota Yuki
2014年 経営デザイン工学科 修士課程修了
吉本研究室
2015年度インタビュー

Q 現在は、どこの企業でどのような仕事をされているのでしょうか。

昨年、旭硝子株式会社に入社し、情報システム部門に配属されました。
部門全体としては、ITを通じて、社内業務――生産、会計、営業などの業務の改革・効率化に取り組んでいます。
そのなかで、自分が所属しているグループは、新しい技術を導入することと既存システムの運用・保守を担っています。特に力を入れているのがクラウドコンピューティングの導入です。乗り越えなくてはならない壁も多いですが、単純に自社サーバーからクラウドに移すだけでも、コスト面で3~4割を削減することが可能な技術です。でも、せっかくITの変革期にいるならば、業務の仕組みも変えなければ面白くない。ITは業務の仕組みを構築する手段なので、業務の仕組みをどう変化させるのかに目を向けるべきです。特に、今、取り組んでいるのは、ある事業部の基幹業務システムを「改新」することですから、改革が求められています。

Q そのなかで、久保田さんの仕事は?

ガラスを安全に運ぶための鉄製の檻のような道具を「パレット」と呼ぶのですが、顧客が注文するガラスの量や大きさに応じて、様々なパレットを用意する必要があります。これらのパレットを配送する際、限られたトラックにできる限り多くのパレットを運びたい。これは、あるシステムで計算しているのですが、そのシステムのクラウド化の担当をしています。

学生時代に学んだのは知識だけではなく、知識を活用するための習慣と考え方

Q 学生時代に学んでいたことは?

吉本一穗先生の研究室で学びました。吉本研究室では企業の生産効率を高めるために、施設のレイアウト設計、物流の効率化、サービス工学を主に研究しています。自分が研究していたのは物流で、学部の頃は、どんな輸送手段を組み合わせれば、いかに安く、早く、運ぶことができるかについて研究していました。
修士になってからは、興味が少し違う研究に移ります。商品の価格と物流との関係についての研究です。
商品が安いとたくさん売れますが、その分、物流量も多くなるので、費用がかかります。逆に商品が高いとあまり売れませんから、物流の費用は少なくて済みます。安く販売した方が良いと考えられていた商品も、もしかすると少し高い価格で販売した方が儲かるかもしれません。この変動を最適化できないかと考えたのです。
そこで、私が取り組んだのは海運業界のコンテナ船でした。海運業ではすでにこの考え方が取り入れられていて、単純に物流量に応じて価格を変えるのではなく、量が少ない場合でも高くすることがあるからです。ここに目をつけて、いかに価格を最適化するかを企業との共同研究という形で取り組みました。

Q 今の仕事だと、業務に関係する知識はあったということですね。

そうですね。でも、今、役立っているのは、知識よりも、学生時代に身につけた習慣や考え方のほうだと思います。
これは吉本研究室に連綿と続く伝統だと思うのですが、研究室に入った瞬間から先輩たちに厳しく指導されました。先輩方から常に言われていたのは、次の二つのことを徹底的に考えろというものでした。
一つ目は「目的は何か。また、どうして自分はその様に考えたのかを考え抜く」という点、もう一つは「その考えを冗長にではなく、端的に表すとどうなるか」という点です。この「自分の考えを疑い、考え抜くこと」と「端的に表現すること」の訓練は今でも役立っています。
また、研究室の同期のメンバーが皆、意識が高く、自分の研究以外のことにも関心を持ち、議論するような連中でした。そういった日々も今に生きています。

Q 研究室で学んだことで何か印象に残っているものがあれば教えて下さい。

よく吉本先生は「研究が学問的なものになってはいけない」とおっしゃっていました。
ようするに「学問的」とは、現実的なものではない研究、実際に使えない研究のことを指しているのだと思います。
たとえば、物流は「全体最適」だと言って、生産地から消費地まで、すべてを最適化することを目指していますが、それはあくまで理想に過ぎません。それぞれの段階に応じた最適化があり、その現実を無視することはできないのです。つねに実務的であること――この考え方も今、役立っています。

まずやってみようという、マインドを身につけられた

Q 経営システム工学科に入ろうと思ったきっかけは?

本学に進学した先輩から「経営工学」という学問があると聞き、経営システム工学科の存在を知りました。先輩は「今、やりたいことが明確にないなら、将来の選択肢が多そうな所に入って、それからしっかりと見つければいいのでは?」とアドバイスしてくれました。
実際、経営システム工学科では幅広い分野を学べましたし、様々な選択肢を見つけることができたので、入って良かったと思っています。
結局、自分自身は、やってきたことを突き詰めているわけではありませんが、ここで6年間を過ごして、たとえ専門性はなくても、どこに行っても適応するための基本的な能力は身についたと思っています。少なくとも、未知の世界でも躊躇わず、「まずはやってみよう」と思えるマインドは身につきました。
ですから、今、やりたいことが明確ではない受験生にも、経営システム工学科はお勧めです。いろいろな経験ができることは間違いありません。是非、検討してみて欲しいですね。