今、求められているのは、
自分でやるべきことを考えて
徹底的に取り組める人

国際航業株式会社 上級顧問
前川 統一郎Maekawa Toichiro
1981年 資源工学修士課程修了
萩原義一研究室
2016年度インタビュー

1981年4月、国際航業株式会社入社。
入社後、約15年間は地下水資源の開発と保全のコンサルティング業務に、以降は土壌・地下水汚染対策のエンジニアリングに努める。
2008年3月、同社より分社した国際環境ソリューションズの社長に就任。
2015年3月、両社が再度吸収合併し、現職。

Q 学生時代の研究と、現在のお仕事を教えてください。

鉱山開発に関する研究に取り組む萩原義一先生の研究室に所属し、山を切り崩す際、ダイナマイトをどう配列すれば効率が良いのか、爆破の振動がどう伝達するのかなどを研究していました。この研究は学部の卒業論文まで。修士過程に入ってからは、学部生の卒論指導で鉱山開発の研究や、通産省(当時)の委託研究で、もっぱら日本各地の原石山をめぐり、石の種類・質・強度などを調べていました。
ところが、ふと「これだけでは修士論文が書けない」と気づき、慌てて考えたのが、露天採掘後の鉱山の残壁の安定性を研究することでした。その頃、卓上計算機でできる簡易的な方法は普及していましたが、もっとアカデミックな方法で予測したかったのです。そこで「有限要素法」という手法を活用し、さらに独学でコンピュータを勉強し、プログラムを作りました。当時はあまり実例が無い研究でしたが、萩原先生は自由に研究させてくれたので、良い思い出になっています。
修士課程修了後、国際航業株式会社に入社し、地下水資源の開発と保全のプロジェクトに従事しました。その関係で、早くから海外に行かせてもらえたので、各地でいろいろな経験を積むことができたのは良かったですね。40歳の時に社内ベンチャーで新規事業を立ち上げ、一時、分社した会社の経営を任されましたが、今は古巣に戻って土壌汚染対策や気候変動対策のコンサルティングを行っています。

Q 海外での仕事はトラブルも多いそうですが、大変なことはありましたか?

それはもうたくさんありました。印象に残っている例をひとつ挙げると、入社4~5年目の頃、一人でマレーシアのボルネオ島に計測に行かされた時のことです。計測には窒素ガスが必要ですが、現地では全て品切れで入手できず、首都クアラルンプールでも、確保するのに1ヶ月はかかると言われてしまいました。為す術がありません。
どうしようもなく、気分転換に隣の工事現場を見物していると、インド人のコンサルタントが声をかけてきて、工事の説明をしはじめました。自己紹介して、自分の仕事を話すと意気投合。現場の中まで案内してくれました。彼らが作っていたのは、石油を積み込むための桟橋。「これから完成したパイプラインが問題ないか調べる」と言うので、どうやって調べるのかを聞いてみると、「窒素ガスで調べるんだ」との答えが返ってきました。彼らが買い占めていたので、私たちは確保できなかったのです。早速、お願いすると、快く譲ってくれて、なんとか計測することができました。
海外に行き、一人で仕事をしていると、似たような大変なことはたくさんあります。でも、なんとかしようと真剣に考えれば良いアイデアが浮かぶものです。もし、良いアイデアが浮かばなくても、考えながら動けば必ず打開できます。だから、大切なのは考えることです。

Q 考えるにあたって、意識すべきことは?

まず「問題を解決したい」と真剣に思うこと。思い込むことです。そうすれば、周囲がこれまでとは違って見えてきます。すべてのことが問題解決のための道具に見えてくるのです。きっと研究も同じでしょう。「これを知りたいんだ」と、気持ちをフォーカスすると、世界が違って見えてくるはずです。
海外に限らず、社会人になれば、知らないこと、経験のないことに取り組まなければならない時が必ず来ます。その時に、いかに諦めず、執念を持って取り組むことができるかが勝負です。 もちろん、たとえ知らないことでも、調べたり、勉強したりすれば身につきます。でも、重要なのは、必要な時に、執念を持って勉強できるのか、知識を身につけることができるのか。自分でやるべきことを考え、徹底的に取り組める人――そんな風に学生時代に成長できれば、これからも生き抜いていけるはずです。
そのためにも、普段から主体性をもって、自分のやりたいことを一つひとつ真剣に取り組む訓練しておくと良いと思います。

社会に出たら、皆がライバル
どんどん人と会い刺激を受けること

Q やりたいことがない人はどうすれば良いでしょうか?

まずは、与えられた課題や研究に対して執念を持って取り組めば良いでしょう。他にも、たとえば好きな人とのデートに真剣になる。遊びも一生懸命遊ぶ。どんなことにも執念を持って取り組むのです。 それから、今の学生なら、海外からの留学生と同席したら、刺激になるのではないでしょうか。海外の学生は、自分の考えをしっかり持っていて、目的意識が明確です。
私も仕事で行った海外で、たくさんの刺激を受けました。若いころ行ったマレーシアでは、関連会社や取引先の同世代の現地人社員とよく話をしましたが、彼らは優秀だし、英語もうまいし、自信をもって仕事をしています。日本人として負けちゃならない、と発奮した思い出があります。
実際、社会に出たら、皆がライバルです。研究もそうでしょう。だから、4年生になって、研究室に入ったら真剣にやらなければなりません。
留学生と接する機会がなくても、学会に入って他大生の研究を聞くことも刺激になります。ですから、自分の知らない人、知らない環境にいる人にどんどん会うべきです。

Q これからはどのような時代になると思いますか?

今の段階で100年後を予測するとしたら、おそらくもっと気候変動がひどくなっているだろうということです。であれば、今から気候変動の解決のために行動しなければなりません。
自然環境の悪化がなぜ良くないのか。たとえば、魚が取れなくなれば、その影響がやがて社会全体を変化させ、いずれは自分に返ってくるからです。魚がいなくなり、食糧が減れば貧しい人が増える。貧しい人が増えると、社会全体が不安定になり、ISなどのテロ組織に走りかねません。
ですから、今、世界的に共通する目的の一つとして、気候変動をどうするか、持続可能な社会をどう作るかが挙げられています。たとえトランプさんがアメリカの大統領になっても、そこはブレずに考えていかなければなりません。自己を保ちながらも、人類共通の目的のために進むべきでしょう。
自分を保つとは、わかりやすくいえば「自分が何で役に立つのか」を考えることです。「役に立つ」という言葉が弱々しければ、「自分の存在意義」と考えればいいでしょう。目的を成就するために、自分はどう貢献するのか、自分の存在意義をどこに見出すのか。これを考えなければなりません。個人もそうですが、企業にも学校にも必要なことです。
その際、他者の価値、多様な価値を認めることも大切なことです。

Q そんな時代にあって、早稲田の使命とは。

校歌を思い出してみるとわかるかもしれません。
早稲田には「進取の精神」、つまり自ら時代を先取りし挑戦する精神があります。また、「集まり参じて人は変われど」と歌われるように、ダイバーシティもある大学です。
特に、理工学術院には多くの留学生がいます。また、環境資源工学科教授の所千晴先生のように、女性が活躍する場も増えています。そんな多様性ある大学なのだから、1人でスマホを眺めているのではなく、いろんな人と会って話して交流してほしいです。遊びのサークルでもバイトでもいい。いろいろな人のなかで、一つひとつ真剣に取り組むことによって、激動の時代を生き抜く力を身につけることがきっとできるでしょう。その環境が早稲田にはあります。