平日は仕事、週末は勉強。
一流の教授の下で学べる喜び

外資系製薬会社勤務(社会人ドクター)
岡山 明史Okayama Akifumi
経営システム工学専攻 博士課程2年
永田研究室
2015年度インタビュー

Q まずは仕事の内容から教えて下さい。

製薬会社の開発職の臨床統計部に所属しています。医薬品開発に統計の観点から関わる部署で、研究室で学んだことに近い分野で働いています。
職場では、部署の先輩方が皆、私の指導教員である永田靖先生の著書を最低1冊は持っているというくらい先生は有名で、私が配属される時には、「あの永田研出身者が来る」と話題になっていたそうです。先生のすごさをあらためて知りました。

Q 社会人で博士過程を学ぶ社会人ドクターに通うようになったきっかけは。

働きながら大学院で学ぶ社員を支援する社内制度があって、それに応募、採用されたことがきっかけです。
他大学の研究室に行くという選択肢もあったのですが、もともと永田先生の研究室(統計科学研究)出身であったことと私が研究したい内容が先生の専門であったことから今の研究室が最適であると考え、先生に受け入れていただきました。
そもそも今の仕事に就くことになったのも、先生の本を書く手伝いをしていた時に、その共著者が製薬会社での統計の仕事を勧めてくださったことがきっかけでした。

Q どのような研究をされているのでしょうか。

私は主に、統計的多重比較法について研究しています。あるデータを統計的に仮説検定する時に、検定する仮説が一つであれば起きない問題が、複数回仮説検定をする場合には起きることがあります。
よくたとえられるのが、ワインとソムリエの話です。あるレストランのワイン貯蔵庫では、全体の5%のボトルが酸っぱくなる程度の管理をしていたとします。1テーブルでワインは1本しか頼まれない場合には、酸っぱいワインを出してしまう確率は5%であるため、ソムリエは平均的に20テーブルに1テーブルの割合で謝る計算です。しかし、1テーブルでワインが3本頼まれる場合では、3本中1本以上酸っぱいワインを出してしまう確率は1-(1-0.05)3≒14%であり、1本でも酸っぱいワインが出てくるとその食事が台無しになってしまうと考えると、ソムリエは平均的に7テーブル中1テーブルで謝る羽目になってしまいます。それだけたびたび謝っていてはお店の信用はなくなり、やがて潰れてしまいます。
このような複数回検定をする場合に生じる問題に対処するのが多重比較法であり、上記の例への多重比較法によるシンプルな対応策は、ワイン貯蔵庫の管理状態を5%より厳しく(小さく)設定することで、ソムリエがテーブルに謝りにいく確率を適切にコントロールすることです。
医薬品開発でも、多重性の調整は国際的なガイドライン等で求められています。私の研究目標は、特に医薬品開発の場面で起きやすい多重比較の問題に対応できる新しい手法を提案することです。

社会に出てはじめて、
学生がいかに恵まれているかが分かる

Q どのようなスケジュールで生活されているのですか?

基本的に平日は仕事、週末は勉強というリズムで動いています。
私の会社では「ウィークエンド・フレックス」という制度を採用していて、金曜日午後の勤務時間が自由に決められます。ですから、毎週金曜日の午後は早退して、研究室に行っています。
永田研究室では、これまで毎週金曜日の13時半からゼミが開始だったのですが、先生が配慮して下さって、開始時間を私が駆け付けられる14時半からに変更して下さいました。ですから、緊急の仕事がない限りは、ゼミにも参加できています。

Q 一度社会に出てから、再び大学に戻って学ぶことの利点は?

短期間でも社会の厳しさ、難しさを知って、学生は恵まれているという実感を持ちながら、その学生生活を過ごせることですね。
研究できる時間、場所があることもそうですし、指導してくれる先生がいることがいかにありがたいかも感じています。学生しか経験したことがない時にはそれが当り前だと思っていて、なかなか気づきにくいと思います。
また、時間に制限がある分ダラダラすることが少なくなって、優先順位をつけて限られた時間内にできることを集中してやろうと思うようになったのも良いところだと思います。

Q 今後の目標を教えて下さい。

統計学、特に多重比較法を極めていくこともそうなのですが、これからは、広い意味での学問を身につけて行きたいと感じています。
たとえば、論理的思考や問題解決能力などの、より本質的なことを身につけたいです。また、多忙なときの調整能力やスケジュール管理のやり方なども学んで行きたいですね。

Q 岡山さんにとって早稲田の魅力とは。

やはり教授陣がすごいことです。学生のうちは気づかないかもしれませんが、社会に出ると、その分野では広く名の知れた方がとても多いです。そんな第一線の研究者の指導を受け、その考え方を学べることはとても魅力です。
 それと、特に社会人ドクターになってから実感しているのは、都心にある利便性です。通うことは良いペースメーカーになるため、都心に勤めるビジネスマンがもう一度本格的に学びたいのであれば、立地も重要だと思います。

Q 社会人はただでさえ忙しいので、学びたくてもその一歩を踏み出せない人がいるかもしれませんが。

たしかに、会社と大学の両立は難しいです。私の場合、周囲の方々に非常に恵まれていて、サポートしていただいているのですが、それでも大変なことはたくさんあります。でも、大変なことは悪いことではないですし、大変なときにこそ簡単に逃げないことが大切だと思っています。喉元過ぎれば熱さを忘れるではないですが、その時は大変であっても、終わって2、3日経てば意外となんともなかったと思うことが多いと思うので、大丈夫です。
また、好きなことに取り組むのであれば、意外と辛くないものです。私も友人から「よくそんなことを続けられるね」と言われることがありますが、意外と本人は楽しんでいます。好きなことをやっているわけですから。 ですから、機会に恵まれれば思い切って挑戦してみれば良いと思います。