生命と同じ基本原理で動く
機械を作ってみたい

カリフォルニア大学デービス校助教授
UC Davis: University of California, Davis
Assistant Professor (Pharmacology)
佐藤 大輔Sato Daisuke
1999年 機械工学科卒業
三輪敬之研究室
2016年度インタビュー
1999年 早稲田大学機械工学科を卒業
2000年 同大修士過程を中途退学。米国ノースイースタン大学大学院物理学科に進学。
2006年8月 博士号取得。Ph.D., Northeastern University, Boston MA
同年9月 カリフォルニア大学ロサンゼルス校UCLAで博士研究員(ポスドク)に。
2009年9月 カリフォルニア大学デービス校UC Davis医学部薬理学科に赴任。
2014年7月 同大学助教授Assistant Professorに就任。

Q アメリカの大学で研究をされているそうですが、どちらでどのような研究をされているのでしょうか。

現在、カリフォルニア大学デービス校(UC Davis)の医学部薬理学科で助教授をしています。早稲田と同様に、独立した研究者として自分の研究室を持ち、自由に研究させて頂いています。
研究しているのは、突然死の原因となる心臓疾患、不整脈、心不全など、心臓に起こる現象のメカニズムです。具体的には、これらの現象をコンピューターによって、分子レベルからモデリングし、シミュレーションしています。心電図から不整脈などが判るように、心臓は電気信号で動いています。ですが、この電気信号は非線形な現象なので非常に予測が困難です。そこで、数理モデルを作りシミュレーションを行うことが有効なのであります。

Q 機械工学科(総合機械工学科の前身)から、なぜ物理学科に進学したのでしょうか。

そもそも機械工学科に決めた一番の決め手は、いろいろな分野を学べるからでした。
昔からロボットに興味があったのですが、機械やロボットが万能なわけではありません。人間や動物の方が優れている点はたくさんあります。たとえば、筋肉はエンジンよりも静かに動けますし、人工知能が進んでいるとはいえ、人間の脳を超える知能はまだできていません。ですから、脳や筋肉などにも興味があり、ほかの学科とも悩みました。しかし、機械工学はいわば総合の学問で、材料学、力学、電子回路や電気回路などはもちろん、脳や筋肉を動かすソフトウェアについても学べます。なので、機械工学科に進学しました。
学部在籍時は、ロボットよりも、生物の機能・動きへの関心が高まり、三輪研究室でも、生命の原理を応用した機械をどうしたら作れるのかを考えたり、ディスカッションしたりしていました。そうしているうちに、だんだんと生命現象を根本から理解したい、分子レベルから解明したいという気持ちが高じてきました。そのため、大学院は物理学科に進学することにしました。

Q 「生命の原理」とは、どのようなものなのでしょうか。

たとえば、湯船にお湯を張った状態で栓を抜くと、渦巻きができますよね。これは、エネルギーを消費・散逸しながら、構造を維持しているという点で「生命の原理」と同じです。これを「散逸構造」と呼びます。この渦巻きのそばに指を入れてみると、渦巻きは一時的に乱れますが、すぐに修復するはずです。これは「生命の自己修復機能」と同じだと考えられます。
この話を知ったのは、早稲田にいる頃でした。学科在籍中には物理学科の相澤洋二先生のところに話を聞きに行ったりしていたのですが、相澤先生の師匠であるイリヤ・プリゴジンが提唱したのです。
このような原理を応用した機械は未だに存在しません。生命に似せた機械、見た目だけを真似した機械はたくさんありますが、このような生命の基本原理を応用した機械をゆくゆくは作ってみたいと思っています。

たとえ英語ができなくても
興味があれば留学すべし

Q 海外の大学院を選択したのは? 語学等の準備はしていたのでしょうか。

基本的には機械工学科の志望理由と同じで、海外に行ったほうがいろいろなことを学べて、見聞を広められると思ったからです。日本の大学だと、大学院への進学の際に、学科・専攻を変えるのが難しいというのもありました。それなら、思い切って海外に行ってしまえと思ったのです。
英語については留学に必要なTOEFLの勉強だけはしていましたが、それ以外、特別な準備はしていなかったので、会話がほとんどできませんでした。問題はリスニングです。私は奨学金を受ける代わりに、TA(ティーチング・アシスタント)を務めていて、週2回、学部生をつきっきりで面倒見なければならなかったのですが、最初、彼らが何を言っているのか、さっぱりわかりませんでした。アメリカの大学は、大学院だと世界各国から集まっていますが、学部生はほとんどが生粋のアメリカ人で、彼らの英語はとても流暢だったのです。聞き取れれば何とか話せるのに、ほとんど聞き取れないので何も言えない。そんな悔しい思いもしました。でも学部生に舐められてはならないと、1年間やり通し、話せるようになりました。
ですから、海外で研究したいなら、思い切って行ってみるべきです。言葉は何とかなります。

Q 留学はすべきでしょうか。

私の場合、いろいろなところで、多様な知識を吸収したかったから海外に出たわけですが、それが自分にとっては非常に役に立っています。
ただ、必ずしも留学すべきとは限りません。日本で面白い独自研究をされている方も大勢いますし、最先端の研究者もたくさんいます。日本の大学の方が優れている点もあります。ですから、国内国外にこだわるよりも、自分のやりたいことに照らし合わせて考えてみるべきではないでしょうか。

Q 受験生、学生へのメッセージをお願いします。

大学の先生方は研究大好きで、三度の飯より研究が好きという方ばかりです。学生からの質問も大歓迎で応えてくれると思います。ですから、何か疑問や興味があれば、自分から先生方に連絡してみると良いでしょう。自分は付属校だったので、高校時代から友達と一緒に研究室に行ったりしていましたが、今ならメールを公開している先生方も多いので、付属校でなくても連絡手段はあるはずです。積極的にアプローチしていけば、応えてくれる可能性は大いにありますし、もしかしたら何らかのプロジェクトに取り組めるかもしれません。レスポンスがなければ、次に行けばいいだけですから、やって損はありません。
大学に入れば今まで周りが敷いてくれていたレールがなくなります。大学は自分のやりたいことを見つける時期、そして、身につけるべきスキル・知識や、将来の方向性を模索する時期です。それを有意義に過ごせるかどうかは本人次第ですから、自分から積極的に動くことが大切になります。レールが敷かれていることに慣れていると、何もしないで終わってしまうでしょう。大学では、勉強や研究に限らず、「自分から動く」というトレーニングをするのも、大切なことだと思います。

Q やりたいことがない人はどうしたらいいでしょうか。

たとえば、解決すべき課題から考えてみるのはどうでしょうか。今、私がかけているメガネは、数百年もの間、基本構造が変わっていません。でも、邪魔だし、鬱陶しい。それを変えてみようと考えてみるわけです。あるいは、自分は何を解決したいのだろうかと考えてみましょう。その答えは、あなたが「どんな世界を、どんな未来をつくりたいのか?」という問題に通じます。または、興味があることから考えてみるのも良いでしょう。今なら、人工知能などがホットな話題ですが、日本語で「知情意」と言うように、脳には知能だけではなく、情動や意思など、別のはたらきもあります。そんなことに興味が出てくれば、きっと大学に行くのが楽しみになるはずです。もちろん、高校生であれば、まだ自分のやりたいことは具体的にはわからないかもしれません。でも大学時代はたくさん時間があるので、きっと自分の興味を具体化できるはずです。
早稲田には、そのための環境が整っています。一流の教授陣、最高の設備はアメリカの大学にも引けを取りません。図書館や総合機械工学科の工作室はとても恵まれています。早稲田に入ったら、それらのリソースを目一杯使って、有意義に過ごしてほしいですね。