socio-technical systemを作る。

経営システム工学科/経営デザイン専攻 教授
小松原 明哲Komatsubara Akinori
専攻分野 人間生活工学
2013年度インタビュー

Q 経営システム工学とはどんな学問ですか?

工学というのは物を作る技術のことですが、経営システム工学では、社会におけるシステムを作ります。socio-technical system と呼ばれるもので、生産システム、物流システム、交通輸送システム、情報通信システム、ビジネスシステムなど、現代社会は、socio-technical system 抜きでは語れません。宅配便を今日出すと、明日には全国各地に間違いなく届いている。素晴らしいことだと思いませんか? こうしたシステムを設計し、運用するには、技術が必要です。経営システム工学科では、そのための技術を研究しています。

人間の特性や限界にあわせて

Q 社会におけるシステム(socio-technical system)というのは?

socio-technical systemの要素をざっくり分けると、「ひと」「もの」「おかね」「情報」の4つがあります。「ひと」とは、そのシステムで働く人のことですね。作業員、オペレータ、職員などのスタッフです。「もの」とは、設備や道具などのこと。「おかね」は文字とおり、お金です。お金がなければ働いている人に給与も払えません。「情報」も重要です。宅配便が迷子にならないのは、一つ一つの荷物に番号をつけてコンピュータで管理しているからです。こうした4つの性格の異なる要素を、システム工学、計画数理などの技術を用いて組み合わせることで、socio-technical systemは機能します。私はこの中で「ひと」の部分を扱っています。

人間はスーパーマンではありません。さまざまな能力の限界や特性があります。身長や手の長さといったプロポーションの特性、疲労といった生理的な特性、気分がよい、やる気が出る、というような心理的な特性を上げることができるでしょう。こうした人間の特性や限界にあわせてシステムを設計することが大切です。さもないと、疲れてミスをしたり、やる気が湧かずに離職をしたり、などといったことが生じてしまいます。これでは、socio-technical systemは成立しません。

こうした「人」の要素を扱うのが、「人間工学」「人間生活工学」といった技術領域となります。私はそれを専門としています。

パーツの寄せ集めではなく

Q 人間工学と人間生活工学とはどう違うのでしょう?

ヒューマンスケールを、小さいものから順にあげると、遺伝子、細胞、臓器、器官、個体としての人間(生活者)、グループ、チーム、組織、社会ということになります。このうち、人間工学は「器官」をベースにしています。つまり視覚や聴覚などの感覚、判断や記憶などの認知、手や足などといった人体パーツの特性や限界をベースにして、人工物を設計していきます。身体にフィットする椅子、扱いやすい携帯電話、見やすいディスプレイなど、私たちの身の回りにはさまざまなところで人間工学が役に立っています。

一方、「人間生活工学」は、生活者に視点を置きます。生活とは、家庭に限らず、職場、社会などでの人の営み全てを含む概念ですが、そうした生活の質を高めるための技術を考えていきます。

人間工学も人間生活工学も、扱う対象はとても広いのですが、私はその中でも、ヒューマンファクターといわれる事故の防止に関する技術開発や、ユーザビリティデザインといわれるIT機器のインタフェイス設計に興味を持っています。

Q 研究室のポリシーをお聞かせください。

そうですね。研究室の学生に常々話しているのは、問題発見から問題解決まで、自分でできるようになること。知識も必要だが、それを生かせる人物になれ、ということです。中でも、現代社会では、問題を見つけ、問題の本質を見抜き、仮説を自分で生成するという、問題同定の能力が重要です。そして、自分の見つけた問題に対して、言いっぱなしではなく、プロセスを踏んで解決に行き着くことも必要です。こうした問題発見と、問題解決の能力は、訓練することで身につけることが出来ます。卒業研究や修士論文を通じて、確実に身につけてもらいたいと思っています。それが研究室の方針です。

Q 高校生、受験生へ

現代は大きな時代の過渡期だと言われます。今までの延長線上に将来を見通せない、ということは確かでしょう。今まで先人が培ってきたさまざまなことがらを大切にしながら、新しいものを生み出すことが、本当に必要とされています。経営システム工学は、社会と密接な関係をもつ、グローバル化の時代に不可欠な技術です。socio-techinical system という目に見えにくいシステムを扱うだけに、難しさもありますが、それ自体がおもしろさでもあります。自分で何かを切り開こうという気持ちがある人に、ぜひチャレンジしてほしいですね。