すべては「世界を豊かにする」ために――
宇宙をフィールドに、地球規模で思索する

宇宙航空研究開発機構(JAXA)
研究開発部門 システム技術ユニット
筒井 雄樹Tsutsui Yuki
2016年 総合機械工学専攻修士課程修了
滝沢研二研究室
2018年度インタビュー

Q 直近のお仕事について教えてください

去る2019年1月18日に人工衛星の打ち上げを無事に終えたところです。これはJAXAが立ち上げた「革新的衛星技術実証プログラム※」の一環で打ち上げたものです。
このプログラムで私は、民間企業や大学等から公募により選ばれた7つの部品・コンポーネントを搭載する、小型実証衛星1号機(RAPIS-1)の開発を担当しました。小型の衛星で7つのモノ全てが機能するように調整をするのに苦労しましたが、無事に打ち上がり、既に成果も出始めています。
この衛星の一番の目的は、新しい技術が宇宙空間で機能したという実績を得ることにあります。宇宙で使われる部品や素材というのは、実際に宇宙で実験してみないと、使用に耐え得るかどうかわかりません。そうなると、どうしても過去に使用した実績のあるものに偏ってしまいます。そこで、新しい技術を小型の衛星にできる限り詰め込んで、宇宙での実績をまとめて作ることを目指しています。
前例のない取り組みなので、困難の連続です。しかし、学生時代も発足したばかりの滝沢研で流体構造連成という最先端の分野に取り組んでいたので、そのときに新しいことにチャレンジする姿勢は培われたと思います。
また、打ち上げ後は、小型衛星の開発経験を活かして、新しい宇宙機システムの研究を行っています。JAXAではこのように、開発の現場と学術研究を行ったり来たりできる、とても恵まれた環境だと思います。

※「革新的衛星技術実証プログラム」の詳細はこちら

革新的衛星技術実証プログラムで打ち上げた人工衛星の模型とともに

きっかけはボランティア
「自分にできることは何か?」と考えるように

Q どのように就職先を検討されましたか?

学生時代の研究をそのまま仕事にしたいという人もいますが、私は学生時代にやったことを必ずしもそのまま活かしたいとは考えていませんでした。仕事を通じて「世界をどのように豊かにするべきか」ということを軸に就職先を検討したのです。
私が学部2年生の時に東日本大震災がありました。いてもたってもいられず、現地に入りボランティアとして支援活動をしました。その中で、自然とそんな気持ちが芽生えてきたのです。
その後、夏休みなどを利用して海外でもボランティア活動を経験。フィリピンやタイやケニアの貧しい地域で活動を重ねました。特にケニアではスラム街での活動だったので、その貧困ぶりも想像を絶するものでした。「生まれながらにして貧しく、生きる希望を持てない人がいる」という現実を突きつけられて、自分にできること、やらなければならないことはなんだろうかと考えるようになったのです。

Q ではなぜ「宇宙」なのでしょうか?

これまでの経験から、国際協力を行う機関など、そういった進路も考えました。しかし、自分にしかできないことは何かと考えたときに、やはりエンジニアリングだと思ったのです。
エンジニアリングとは、物理現象を数学的に解釈して、考察をしていくという非常に汎用性の高いスキルです。私が取り組んだ流体構造連成は、例えば空気とパラシュート、空気とタイヤ、血流と血管など、流体と構造という異なる物理法則が複雑に絡み合う現象をいかに解くかという研究なので、数学に基づいて現象を理解するという部分は特に鍛えられました。これは実験のできない「宇宙」を相手にする際には非常に役立つスキルなのです。

Q 宇宙からどのように世界を豊かにしていけるのでしょうか?

例えば、衛星からは地球が一望できるので、CO2の濃度をモニタリングし、地球環境の変動メカニズムを解明したり、大規模災害の発生時にはすぐに衛星画像を地球へ送り、それをもとに避難経路を作成することで被害拡大を防ぐことに役立ちます。
他にも、宇宙から海水をモニタリングして養殖を効率化したり、農作物の発育状況を把握して最適な収穫時期や収穫量を予測することで、食糧問題解決へ貢献できます。 このように、宇宙を利用して地球規模で非常にインパクトの大きい取り組みができるのです。将来的には、2050年に人口100億人ともいわれる地球に住むすべての人が、安心安全に暮らせる社会を宇宙から実現したいです。

Q 受験生にメッセージを

個人的に、昨今就職活動などでよく言われる「好きなことを仕事に」というフレーズがあまり好きではないですね。私は、まず「この世界をどのように良くしていきたいか」というビジョンが先にあって、そこに使命感を持つことが、働きがい、そして生きがいにつながるものだと思うのです。ですので高校生の方には、自分の興味関心にとらわれず、まずはこの世界がどのようになっているか、じっくりと見ることから始めてほしいですね。そういうチャンスが、早稲田にはたくさんあります。
私はこの大学で本当にさまざまな人たちと出会い、たくさんの貴重な経験をさせていただきました。それらすべてが今の自分を形作っています。研究にせよ、サークルにせよ、自分の人生を自分らしく謳歌したいと思う人はぜひ、“都の西北”を目指して欲しいと思います。