原点は阪神・淡路大震災
どんな揺れにも耐えうる建物を

建築学専攻 修士1年
本山 真帆Motoyama Maho
西谷章研究室(構造制御・モニタリング・モデリング研究室)
2016年度インタビュー

Q 建築学科を選んだ理由から教えてください。

私は神戸で生まれたのですが、その翌年、阪神・淡路大震災が起こりました。その影響が大きいかもしれません。
震災そのものの記憶はほとんどないのですが、復興の様子を間近で見てきました。そこで感じたのは、地域における建築物の重要性でした。
まず、復興そのものが建物中心に進められてきました。
また、阪神・淡路大震災は火災が多かったのですが、防災の観点から、地域住民が避難できるような建物が多く建てられました。公民館や学校に隣接する施設です。それらの施設では震災の記憶を遺す機能や、防災の重要性、住民間での協力の必要性などを学ぶ機能もあります。私もそこで震災の悲惨さを学習しました。その建物が地域住民の集い合う場となり、地域のコミュニティが形成されていく様子も覚えています。
その一方で、街のシンボルとなるような建物が倒壊の危険があるとして、壊されるのも目の当たりにしました。皆、仕方ないと思いつつも、寂しがっていたのを覚えています。
そんな経験から、どんな地震にも耐えうる、街のシンボルになるような大きな建物を作りたいと思って建築学科を志望しました。

建物の「ねじれ」を把握し、制御に活用

Q 現在はどのような研究を?

西谷章先生の構造制御・モニタリング・モデリング研究室で、構造の研究に携わっています。
学部の卒業論文では、偏心の大きい建物に対して、地震等による影響がどのようにもたらされるかを数式で定量的に示そうと試みました。
偏心が大きいとは、重心(重さの中心点)と剛心(強さの中心点)との距離があるということですから、いわゆる「ねじれ」が発生しやすくなります。そのねじれに発生する「ねじれ振動」の影響で、建物の弱い部分が壊れる確率が高くなるのです。しかし、ねじれは、偏心率のみならず、建物の構造や部屋の形、地震の揺れの方向など様々な要素が影響します。ですから、建物にどのような影響をもたらすのかを解析するのは困難なのです。
そこで、私たちはモンテカルロ法という計算理論を使って解析しました。具体的には、解析ソフトを使ってシミュレーションをくり返し、統計的にどのような傾向があるのかを調べます。シミュレーションは建物の重さ、耐震要素、地震動の波などを変えて試さなければなりません。時間がかかったのはもちろん、設定を間違えたりソフトがエラーを起こしたりすることもありました。
一方で、どのような結果が出るのかまったくわからないことが、作業を進めるうちにだんだん見えてくるのは面白い経験でした。何千回ものシミュレーションの結果、最終的に求めていたものを数式で表すことができた時は、本当に嬉しかったですね。

Q 今後の研究の方向性は?

これまでやってきたことを「制御」の研究に応用してみたいと思っています。
建築構造における制御とは、地震や強風などの影響によって建物に起こる振動を制御できるような構造を作ろうとする研究です。この研究は、ダンパーなどを用いて震動を吸収したり、大きな建物の上に重りをぶら下げることで揺れを相殺したりする仕組みに応用されています。
これまで私たちがやってきた研究では、限定的な条件下ではありますが、ねじれ振動の影響がどのようにもたらされるのかがわかりました。ですから、この形状の建物には、この部分にダンパーを付けると効果的に制震できるというようなことば導き出せるかもしれません。

少しでも興味があれば、建築学科へ

Q 西谷研究室の特徴は?

海外への意識が強いかもしれません。ほかの大学でも語学研修等は盛んだと思いますが、私たちの研究室では語学ではなく、建築とその隣接分野の最先端の知識を学びに、海外に行くのです。これは建築学科全体に言えることかもしれません。
私も先日まで研究室のサマースクールで、イギリスに1ヶ月滞在しました。そこでは英語で建築の講義を受けたり、外国の学生たちと一緒に実験をしたり、土木関係の方に橋梁の構造を教わったりすることができ、とても貴重な体験になりました。

Q 早稲田の建築学科の特徴は?

教員の人数も分野も豊富で、建築の基本となるすべての分野がそろっていることです。意匠はもちろん、構造、材料、環境、まちづくりなど、これほど多様な分野で、高いレベルの教育が受けられるのは早稲田ならではだと思います。
就職先は多様です。建築業界だけではありません。私が知っているなかだけでも、JR東日本企画に入り、店舗等の空間デザインの仕事をしている人もいますし、広告制作に携わっている人もいます。WEBデザイナーとして起業した人もいました。
授業も多様で、たとえば「建物以外のデザインを考えよ」という課題が出たこともありました。ですから、入学してから「どうも建築に向いていないかも」と感じた学生でも、建築学科に在籍したまま、方向転換することが可能です。
ですから、受験の際も、そこまで建築にとらわれなくてもいいかもしれません。美術が得意な人、デザインに興味がある人、まちづくりに携わってみたい人も、入って後悔することはないと思いますね。